2025年7月31日に、NIST「Digital Identity Guidelines」第4版(SP 800-63B-4)が最終化されました。パスワード(NISTは今回“memorized secret”ではなく“password”に呼称統一)に関する要求が実務に直結するレベルで更新されています。まず結論から。NISTコンピュータセキュリティ資源センター
3つの最重要ポイント
- 単要素(パスワードのみ)で使うなら最小長は15文字
Rev.4では、パスワードを単独の認証要素として使う場合、15文字以上を必須化。
多要素(MFA)の一要素として使う場合は8文字以上。NIST技術シリーズ出版物 - 「複雑性ルール」は課してはいけない(禁止のニュアンスに強化)
“英大文字/小文字/数字/記号を必ず混ぜよ”といった構成(composition)要件は不可。
代わりに「ブロックリスト(よく使われる/推測されやすい/漏えい済みのパスワード)照合は必須」という方針が明確です。NIST技術シリーズ出版物 - 定期的なパスワード変更を原則廃止
定期的なパスワード変更は不要。変更は漏えい・侵害の兆候がある場合に限定します。
ユーザビリティ指針にも同旨が記載されました。NIST技術シリーズ出版物
参考記事(英語)でも上記の読み替えが紹介されていますが、実装判断は必ずNIST本文を一次情報として確認してください。t.co
実装チェックリスト(今日から方針に落とす)
- 最小長:
単要素用途は15文字以上をシステム側で強制。多要素用途では要件緩和可(ただし短すぎない設計)。NIST技術シリーズ出版物 - 受け入れ文字:
ASCIIに限定せず、空白やUnicode含む自然言語の“長いフレーズ”を許容(パスフレーズ文化へ)。t.co - 構成ルール撤廃:
「記号必須」「連続文字禁止」などの機械的ルールは設定禁止。NIST技術シリーズ出版物 - ブロックリスト必須:
漏えいデータ・よく使われるパスワード・組織名/サービス名・個人情報の派生などを含むNGリストと照合。ヒット時はわかりやすい理由でリジェクト。NIST技術シリーズ出版物 - 保管:
サーバ側はソルト付きハッシュで保存。コスト要素(反復回数等)は現行計算能力に見合う高め設定、かつ随時引き上げる運用。NIST技術シリーズ出版物 - ミスタイプ許容:
先頭/末尾スペースの取り扱いなど限定的な許容は可。ただし最小長を割らないこと。NIST技術シリーズ出版物 - 変更サイクル:
定期変更なし。侵害の兆候があるときのみ強制変更。ヘルプデスク負荷とユーザ形骸化を避ける。NIST技術シリーズ出版物
パスワードポリシーをアップデートする移行手順
- ポリシー文書の改定
社内規程・ISMS運用手順・就業規則付属のセキュリティハンドブックの最小長/構成ルール/変更サイクルをRev.4準拠へ更新。「定期変更」条項の削除を忘れずに。NISTコンピュータセキュリティ資源センター - IdP/AD/各SaaSの設定変更
IdP(Azure AD/Entra ID、Okta等)やオンプレAD、主要SaaSの最小長=15(単要素時)、構成ルールOFF、ブロックリストONを一括適用。テスト環境→段階リリース。NIST技術シリーズ出版物 - ブロックリスト運用
漏えいパスワードDBへの継続的な同期、組織固有語(社名/製品名/地名/年度)のメンテ。リジェクト時はユーザに理由を明示。NIST技術シリーズ出版物 - ユーザ教育の更新
“強い=記号だらけ”ではなく、**「長いフレーズ+ブロックリスト回避」**へ認知を切替。パスワードマネージャ推奨も併記。NIST技術シリーズ出版物 - 監視・対応フロー
侵害兆候(認証異常/漏えい検知)→当該アカウントのみ変更要求というイベントドリブン運用に刷新。NIST技術シリーズ出版物
Rev.4でパスワード以外に押さえておく周辺アップデート
- フィッシング耐性の定義と要件整理(FIDO等の位置づけが明確化)NIST技術シリーズ出版物
- 顔認証にはPAD(なりすまし対策)必須、音声による比較は不可の明示化 NIST技術シリーズ出版物
- AAL3におけるFIPS要件の調整や非書き出し(non-exportable)要件の追加など、ハード/ソフト認証器の扱いが整理 NIST技術シリーズ出版物
よくある誤解と反証
- 「複雑性ルールを外すと弱くなる?」
短い“複雑”より、長いフレーズの方が総当たり/推測に強い。複雑性は予測可能なパターンを生みやすい副作用もあるため、ブロックリスト+長さが合理的。NIST技術シリーズ出版物 - 「定期変更をやめるのは怖い」
ユーザは微差の付け替えで形骸化しがち。侵害時のみ即時変更の方が実効性が高い。NIST技術シリーズ出版物
まとめ(運用の指針)
- 単要素なら15文字以上、MFA前提なら実用長+ブロックリスト
- “構成ルール”ではなく“ブロックリスト+保存・レート制御の実装品質”で守る
- 変更は“イベント起点”に寄せ、ユーザ体験とセキュリティの両立を図る
すべてNIST最終版で裏取りできる、2025年時点の“最新・合理的な”パスワード方針です。NISTコンピュータセキュリティ資源センター+1
参考リンク(一次情報・読みやすい解説)
- NIST SP 800-63B-4(最終版・PDF):Digital Identity Guidelines: Authentication and Authenticator Management(2025年7月) NIST技術シリーズ出版物
- NIST CSRC 公開ページ(最終化の履歴)(Document History 参照) NISTコンピュータセキュリティ資源センター
- 解説記事(英語):Security Boulevard「NIST SP 800-63B Rev.4 Password Updates」(一次情報の要約として参照) t.co

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